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あんこくせい

暗黒星

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」1939(昭和14)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 94,000 字 · 188 页

青空文庫

あの時の情況は綾子さんにとって決して有利ではないわけだよ。

綾子さんはおばあさんに可愛がられているのだろうね」

「ええ、僕ら兄妹のうちでは一ばん気に入りです」

そして、二人は少しのあいだ、だまったまま顔を見合わせていたが、やがて明智は又はじめる。

「第二の事件の湯殿の場合も、僕が犯人を追って、ヘリオトロープの匂いを嗅いだのだから、これも不利な情況だ。

第三の鞠子ちゃんの場合は、君が壁の穴のからくりを発見した。そして、そういう仕掛けのできるのは、さし当たって、あの人のほかにはない。

鞠子ちゃんの事件があった時、覆面のやつが庭の煉瓦塀の上を歩いて、君たちに姿を見せた。そして、それからしばらくして綾子さんが外出から帰ってきた。ここでもアリバイは成り立たないわけだね。

そのほかに、塔の上の怪しい行動もあるのだから、もしこれが君の姉さんでなかったら、さっそく被疑者としての処置を講じなければならないのだが……」

考えるほど、綾子の嫌疑は濃厚になるばかりであった。

だが、綾子への疑いが深まれば深まるほど、この推定は化物じみたものになって行った。二十歳の娘と、そんな大犯罪とを結びつけることは、どう考えてみても気違いじみていた。