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いきにんぎょう
活人形
泉 鏡花
「探偵小説第十一集 活人形」春陽堂、1893(明治26)年5月3日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 41,111 字 · 82 页
試みに袂を探りて、悪僕より奪い置きたる鍵を嵌むれば、きしと合いたる天の賜物、「占めた。」と捻じれば開くにぞ、得たりと内へ忍び入りぬ。
暗闇を歩むに馴れたれば、爪先探りに跫音を立てず。やがて壇階子を探り当て、「これで、まず、仕事に一足踏懸けた。と耳を澄まして窺えど、人の気附たる様子も無ければ、心安しと二階に上りて、壁を洩れ来る月影に四辺を屹と見渡せば、長き廊下の両側に比々として部屋並べり。大方は雨漏に朽ち腐れて、柱ばかり参差と立ち、畳は破れ天井裂け、戸障子も無き部屋どもの、昔はさこそと偲ばるるが一い二ウ三いと数うるに勝えず。遥か彼方に戸を閉じたる一室ありて、燈火の灯影幽かに見ゆるにぞ、要こそあれと近附きて、ひたと耳をあてて聞くに、人のあるべき気勢もなければ、潜かに戸を推して入込みたる、此室ぞかの人形を置ける室なる。
垂れ下したる日蔽は、これ究竟の隠所と、泰助は雨戸とその幕の間に、電のごとく身を隠しつ。と見れば正面の板床に、世に希有しき人形あり。人形の前に坐りたる、十七八の美人ありけり。
泰助は呼吸を殺してその様を窺えば、美人は何やらむ深く思い沈みたる風情にて、頭を低れて傍目もふらず、今泰助の入りたることは少しも心附かざりき。