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いきにんぎょう

活人形

泉 鏡花

「探偵小説第十一集 活人形」春陽堂、1893(明治26)年5月3日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 41,111 字 · 82 页

青空文庫

何奴だ。出合え出合え。といいながら、得三は血眼にて人形室へ駈け戻り、と見れば下枝は被を被せ置きたるまま寂として声をも立てず。「ちええ、面倒だ。と剣を揮い、胸前目懸けて突込みしが、心急きたる手元狂いて、肩先ぐざと突通せば、きゃッと魂消る下枝の声。

途端に烈しく戸を打叩きて、「赤得、赤得。と叫び立つれば、「汝野狐奴、また来せた。と得三室外へ躍出づれば、ぱっと遁出す人影あり。廊下の暗闇に姿を隠してまた――得三をぞ呼んだりける。

憎さも憎しと得三が、地蹈ふんで縦横に刃を打掉る滅多打。声はようよう遥になり、北の台にて哀げに、「あかァぎさん、とくぞうさん。――四辺は寂然。

これより以前得三が人形室を走り出でて声する者を追いける時、室の外より得三と入違いに、鳥のごとくに飛び込む者あり。突然下枝の被を外してこれを人形に被らせつ。その身は日蔽の影に潜みぬ。

されば得三が引返し来て、被の上より突込みたるは、下枝にあらで人形なりけり。ただ下枝は右にありて床柱に縛し上げられつ、人形は左にありて床の間に据えられたる、肩は擦合うばかりなれば、白刃ものを刺したるとき、下枝は胆消え目も眩みて、絶叫せしはさもありなん。