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しんやのしちょう

深夜の市長

海野 十三

「新青年」博文館、1936(昭和11)年2月~6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 109,982 字 · 220 页

青空文庫

「そうかも知れませんね」

大通りへ出ると僕は円タクを呼び止めた。浅草まで一円でいってくれというと、運転手と助手は、マスミの方をジロジロ見ながら、――旦那、そんなことを云わないで、もう二十銭はずんで下さいな――といった。

「じゃそれと決めて……その代り目黒を通るのをよして、エビスの方へ抜けて呉れ」

僕は鉄橋の上の警官のことを思い出しながらいった。

円タクは深夜の町を、矢のように駛った。

僕はマスミの背後から腕をまわしたものかどうかと迷いながら、ソワソワしていると、そのうちにマスミの身体の重味が、胸のあたりにだんだんと掛ってきた。おや変だなと思っているうちに、彼女の頭がガクンと揺れて、僕の頤の下にもぐって来た。クウクウと、鳩のような寝息が、香りの高いカールをした女の頭髪の下から聞えてきた。僕は翼の折れたモダン娘をソッと抱きよせて、口のうちにシューベルトの子守歌うたった。

やがて車は、賑やかな電灯に輝く雷門の附近まで来たので、僕は惜しい気持がしたけれど、マスミの肩をつついて起した。

「雷門へ来たよ、マスミちゃん。……これからどっちへゆけばいいのかね」

僕は兄貴になったような口を利いた。