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しんやのしちょう

深夜の市長

海野 十三

「新青年」博文館、1936(昭和11)年2月~6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 109,982 字 · 220 页

青空文庫

面は下頤にガーンと、したたか激しい打撃を喰って、呀ッと叫ぶ間もなく、その場へ昏倒してしまった。

暫くはピーンという高い唸音の世界に迷っていて、なにが何だか分らなかった。本当はどの位経ったか知らないが、兎に角やがて気がついた。寒くて身体がブルブルと震えるのを我慢して僕は起き上った。

「畜生!……」

僕は自分自身にはげしい憎悪を感じながら、なおもその憎悪を二倍にも三倍にもして敵の方に叩きつけた。だがそこには相手の影も形もなかった。そればかりではない。その辺に転がっているだろうと思った第三の男の屍体が掻き消したように失せていた。

「ざまはないぞ。黄谷青二も浅間信十郎も……」

あまりのことに、僕はフラフラする足をひきしめて、歩きだそうとした。がそのとき、いま昏倒したときに懐中電灯をどこかそこらに落したことを思い出した。

「うん、大変な証拠物件を残してゆくところだった」

僕は腋の下から冷い汗がジックリと滲みだすのをハッキリと意識した。その失敗一つで、あたら何もかもフイになるところだった。ポケットを探り、燐寸を四、五本一緒にしてシュッと火をつけた。その光であたりを探してみると、目に停ったのは、懐中電灯にはあらで、それはクローム側の真新しい懐中時計だった。