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しんやのしちょう
深夜の市長
海野 十三
「新青年」博文館、1936(昭和11)年2月~6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 109,982 字 · 220 页
紐も鎖もなんにもついていない。これはもちろん僕のものではないから、今の格闘のときに、向うの連中の誰かが落していったものであろう。
それから尚もマッチの火を擦ってみる、と時計の落ちていた近所に、ピカピカ光る小さいものが二つ三つ散らばっているのを発見した。拾いあつめてみると、それは三枚の、日本銀行から出て来たばかりのような十銭のニッケル貨幣だった。これは一体どうしたのだろう。やはり一行が落したものに相違ないが、三枚以上もっとあるかも知れないと思って、更にあたりを探しまわった。しかしそれ以上はどこにも見つからなかった。その代り、舗装道路の上に、点々として流れているドス黒い血痕を発見した。それはいまの殺人が夢ではないことを証明しているようなものだった。それから思いがけない遠方に飛んでいた僕の懐中電灯をも遂に拾うことができた。
「まあ、これでよかった。ほかに何も落し物はないだろうな」
両手のポケットを外から叩いて、思い出そうとしたときに掌がいやにニチャニチャする。ハッと思って、また燐寸をすってみると、掌に一ぱい赤い血がついていた。よく見ると、オーヴァがところどころ血でベトベトになっている。