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しんやのしちょう

深夜の市長

海野 十三

「新青年」博文館、1936(昭和11)年2月~6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 109,982 字 · 220 页

青空文庫

おかしな子ネ。ホラ見ていてごらんなさいよ、面白いのよ」

そういってマスミは。バッグの口を開けて、中からセロファンに包んだガムを取りだして、嫌がる絹坊の顔に押しつけた。すると絹坊はブルブルと慄えたかと思うと、胸を押えて地面に俯臥した。そしてヒイヒイと咽喉を鳴らしながら、まるで病犬のように黄色い胃液を吐いてまわるのだった。

「まあ面白い。ホラ絹ちゃん、チューインガムよ。……」

と、この美しい顔をした悪魔はなおも執拗な遊戯をくりかえすのだった。僕はこの場の暴行に対しきつい義憤を感じながらも、強いてそれを停めはしなかった。なぜならこの異様な光景の中に躍動するマスミの心理状態にたいへん深い魅力を感じたからだった。僕はこの悪性の遊戯に夢中になっている彼女の頬が次第に紅潮し、果ては一種のオルガスムスに似た微かな痙攣がマスミのしなやかな肩から上膊のあたりに波うつのさえ、認めたのだった。

「ねえマスミちゃん」と僕は声をかけた。「君は昨夜目黒の陸橋のところで僕に会ったネ。あのとき僕が君ン家の隣りに住んでいる人間だとすぐ分ってたかい」

「あら、――」とマスミはこっちへクルリと振り向き「嘘よ、そんなこと、気がついたのは家へ送っていただいてからよ。