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しんやのしちょう
深夜の市長
海野 十三
「新青年」博文館、1936(昭和11)年2月~6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 109,982 字 · 220 页
僕は言葉もなく呆然とその場に立ち尽したのだった。
ひょっとすると、僕は戸口を間違えたのではないかと思ったので、再び廊下にとってかえし、長い廻廊をグルグル廻ってみたが、どの戸口からも先刻下り立ったイギリス風の花壇が見えるばかりで、探している塔の影さえ見当らなかった。もしやこれと同じ中庭が、他にもあるのではないかと、それも調べたが、庭はここ一個所であった。
僕は再び中庭の花壇に立った。あのような立派な高塔が一夜のうちに、煙のように消失するわけがない。あの塔が消えてなくなれば、速水輪太郎はどうなるのだろうか。あれも遂に蜃気楼中の幻影の人物だったろうか。いやいやそんなはずはない。
僕はこの不思議な矛盾を、矛盾でなく合理的に説明するために或る一つの大胆な仮説を立てた。その結果、僕は意を決するところがあって、足もとの芝草を一掴み引抜いた。それから僕はまた場所を変えてまた一掴みの芝草を引抜いた。そしてこの二つの芝草の剛さを仔細に調べてみたのだった。僕はそれを幾度も続けていった。その結果、遂に一つの結論に達した。それは――およそこの芝草には柔剛二種のものがあること、それから中央に円形をなした部分の芝草は特に剛くなっていること――この二つの事実を発見したのだった。