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しんやのしちょう
深夜の市長
海野 十三
「新青年」博文館、1936(昭和11)年2月~6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 109,982 字 · 220 页
僕は、鼻から眼へ抜けるほど山葵の利いたやつを十五、六も喰べたであろうか。それから別にお土産を二人前ほど包んで貰ってこれを片手にぶら下げた。
外へ出ると、夕刊を買うことを忘れていたことを思いだした。どこかに、夕刊売りは出ていないかと四囲を見廻すと、小暗い河岸ぷちの向うから、リンリンと微かな鈴の音が聞えてきた。音のしている方向には、灯が一つポツンとついていた。変なところに夕刊売りが出ているものだなと思いながらその方へ近づいていった。すると、近づくに従って、鈴の音は勢いよく盛んにリンリンと鳴り始めたのだった。
「ああ、夕刊を呉れたまえ、――」
「ハイ、いらっしゃい。何をあげます?」と和服を着た年端もゆかぬ夕刊売りの少女が丁寧なお辞儀と共に云った。
僕は驚きの色を隠して、五銭玉を出した。四枚の夕刊をうけとりながらつくづくその場の異風景を観察したが、その淋しい場所にいたのは夕刊売りだけではなく、その傍には実にささやかな店を構えた焼き大福餅店があった。店の主人というのは、なんと十五、六になった水兵服の少女だった。二人は一つのアセチレン灯で、商売をしているのだった。