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しんやのしちょう

深夜の市長

海野 十三

「新青年」博文館、1936(昭和11)年2月~6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 109,982 字 · 220 页

青空文庫

(そうだ、これは事によると……)

不図僕は、それに気がついたのだった。そんな恐ろしいことがあろうか。そんな不思議なことがあっていいだろうか。

「ねえ、千代子ちゃん。貴女の兄さんの身体を見て、これが兄さんだと分る特徴がありますか」

「ええ、顔を見れば分りますわ。それから兄はアノ……右手の拇指が無いのですから、手だけ見たって、直ぐそれと分りますよ」

「おお、それではあの四本指の手の男が……」

僕の予想は的中したのだ。しかしこの可憐なる少女にとっては、それがなんという不幸な的中だったろうか。四本指の男が二十九日の夜、どんなところを歩いて、どんな最期を遂げたか、それは大体ハッキリしている。彼は同夜午後七時五十一分ごろ、明治昼夜銀行目黒支店に突如として現われ、そこで小切手九十九円八十銭を出し、引換えに十円紙幣で九十円と、外にニッケル銅貨で二円の棒包みを四本にバラで一円八十銭也を受取っていったのだった。……それからどんな足取りをとったかは知らないが、その次に彼だと判定される男に会ったのはその夜の午前一時から二時の間――もちろん日附から云えば三月三十日だったが――、四ツ木と思われる男は、亀井戸の魔窟をすぐ前にした路地に、インバネスを着た関西弁の男二人によって屍体となって担がれていた。