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しんやのしちょう
深夜の市長
海野 十三
「新青年」博文館、1936(昭和11)年2月~6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 109,982 字 · 220 页
「やれやれ、案外君たちは不用意なんだネ。僕を見給え、僕を。ちゃんと防弾チョッキを着込んでいるんだ。ホラ、此処に弾丸が当って穴が明いているが、蚤に喰われたほども感じないさ。うわッはッはッ」
と、高らかに笑って、ポンポンと懐の上を叩いた。
高屋市長はと見ると、今し方総監を介抱していたと思ったのに、いつの間にどこへ行ったのか、姿が消えていた。こんなところに愚図愚図していてこの上変な噂をたてられるのを嫌い、要領よく立ち去ったのかと思った。しかしそれは思い違いで、このとき市長はもっと重大な決意の下に行動していたのだったことは、後にいたって思い合わされた。
総監はウーンウーンと重傷に苦悶していた。この上猶予はならないので、僕は通りがかった円タクを呼び留めて、総監の身体を抱え入れた。何処の病院がいいだろうか。総監は大袈裟に騒がれることを恐れている様子である。そのとき僕は、先年、本所の工場で働いていた友人がクレーンに跳ねとばされて重傷を負ったとき入院した江東外科病院を思いだした。近くはないが自動車のことだから、物の五分も違わないと思ったので、運転手に命じて、江東外科病院の方へ走らせた。