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しんやのしちょう
深夜の市長
海野 十三
「新青年」博文館、1936(昭和11)年2月~6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 109,982 字 · 220 页
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すると睡っていたとばかり思った黒河内氏は、パッと眼を見開いて、
「……帰るのか、浅間君。今度はたいへん世話になったネ。いずれよくなったら御礼をするよ。……それから雁金検事に伝えて下さい。例の問題につき協調は成らなかった。私はすぐ適宜の処置を講ずるから……とネ。では……」
といって、白い毛布の間から健全な左手を出すと、僕の手を堅く握った。
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外に出てみると、愕いたことに、雪がチラチラ降っていた。今夜は莫迦に冷えると思っていたが、やはり雪になる知らせだった。陽春とは名ばかりで、このくろぐろと更けた風なき夜、霏々として真直に降り下る白雪をオーヴァの上に受けて、再び真冬に逢うの想いであった。
僕は何よりも先ず、雁金検事にその夜の出来事の報告をしなければならなかった。待合紅高砂の玄関を出た途端に、あの不意打ちの狙撃事件が起り、重傷者を出すやら、病院まで付き添ってゆくやらで自分一人になる自由を持たなかった。この際のこととて他人に立聞かれるような電話をかけることはできないので、ただ徒らに移りゆく時刻を恨しく見送っていたのだった。今こそ、報告の出来る機会がやって来たのである。