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しんやのしちょう

深夜の市長

海野 十三

「新青年」博文館、1936(昭和11)年2月~6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 109,982 字 · 220 页

青空文庫

3

――老人は外へ首を出している様子。

「ああ、ここだ」と靴音と人声とが一緒に近づいた。

「おい、『深夜の市長』、起きてるか。――」

3

「おう、――」と、下の老人は人を喰ったような返事をし「商売繁昌だな。人殺しも賑やかでいいのう」

「なにイ……」

と別の声が憤りを見せるのを、

「オイ云うな」と始めの声が停めて「どうだ『深夜の市長』、逃げて来たやつを隠しゃしないだろうネ」

僕はハッとした。途端に壁を抑えていた靴がズルリと下に滑った。十センチも滑ったような気がしたが、本当はほんの僅かだったかもしれない。こいつはいけない――と、僕は歯を喰いしばってウンと両足を踏んばった。

「相変らず鼻が利くねえ」と老人の声で「叶わないよ、お前さん方には……。さあさあ中に一匹だけ隠して置いたから、摘みだして手柄になせえ」

もう少しで僕は呀ッと叫ぶところだった。ひどい奴があればあったものだ。引張りこんで置いて、僕を相手に売りつけようとは……。八ツ裂にしても足りない奴……と、憤慨し、こっちから進んで飛び下りようとした刹那、

「いや、悪かった悪かった、『市長さん』騒がして済まなかったネ。はッはッはッ」