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しんやのしちょう
深夜の市長
海野 十三
「新青年」博文館、1936(昭和11)年2月~6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 109,982 字 · 220 页
何か激しい疼痛が、彼を襲っているものらしかった。彼は左手でもって、右の腕を握り潰しそうに掴んでいた。そのとき僕はハッと胸を衝かれたように思った。そんなことがあるだろうか。それは暗合だろうか。もしや、もしや……。イヤそんな不思議なことがあってたまるものか。
「俺は駄目だ。俺に構わず、行ってくれ。機会を逸しては、折角の……」と「市長」は叫んだ。
「でも私だけでは、到底目的を達せそうもありませぬ」
「ウン、そうでもあろうが……」
「仲間のなかから、至急信用の置けるのを選びましては……」
「いかんよ、それは……。極秘が破れる。友人の名誉のために、T市の光輝ある歴史のために、それからまた……」
「なんだか知らないが、僕に手伝わせて下さい。僕はきっと秘密を守ります」
と、僕は立って、床に倒れた市長のところへ、近づいた。
「……」市長は髭の間から唇をブルブル慄わせながら、僕の方を見ていたが「おお、浅間君、では速水を助けて……T市の鍵を……秘密を守って……。明朝までに、市長に渡さぬと彼は……」
そこまでいうと、「深夜の市長」はまだ歯をギリギリと噛んで、ブルブルと慄えだした。――T市の鍵! 高屋市長!