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しんやのしちょう
深夜の市長
海野 十三
「新青年」博文館、1936(昭和11)年2月~6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 109,982 字 · 220 页
「そうかも知れないよ。どれ、腹が減ったが、その辺で、ワンタン屋の屋台でも見つけようじゃないか。権之助坂を下れば、どこかに店が出ているぜ。ほう、ひどく冷えてきやがった。……」
「深夜の市長」は寒そうに、鼻を無暗にこすった。
丁度そのときのことだった。一台の空円タクが擦れ違いそうになったが、急にブレーキをかけて、ハタと僕等の側に止った。
「もし……」と運転手は老人の方に声をかけた。
「……」老人は臆する気色もなく、顔をその円タクの方に向けた。
「もうお聞き及びでござんしたら、お許しを蒙ります。先刻よりたいへんお探し申しているようでござります。お帰りならこの車がお供いたしとうござんす。いかがで……」
「ほう、探しているって」と「深夜の市長」はニヤニヤ笑いながら車に近づき、「何処だ、川の向うか」
「詳しいことは存じませぬが、手前は川の向うで言伝りましてござんす。……どうぞお乗りを」
「なにか事件が出来たらしいな。では乗せて貰おう。……どうだネ、お前さんも一緒に乗らんかな」と「深夜の市長」は僕の方をふりかえった。
「……いえ、僕はこの辺で失礼させて頂きます」
実をいうと、その頃僕は「深夜の市長」