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りょうきのはて
猟奇の果
江戸川 乱歩
前篇 猟奇の果、後篇 白蝙蝠「文藝倶楽部」博文館、1930(昭和5)年1月~12月<br>「猟奇の果」もうひとつの結末「猟奇の果」日正書房、1946(昭和21)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 134,971 字 · 270 页
そして、そこには彼が不倫の妻と信ずる所の芳江が彼の不思議な朝帰りを待っていたのだ。
お話はそれから三日目の夜に飛ぶ。その間の愛之助夫妻の心理的葛藤を描写していては退屈だからである。
愛之助がその夜八時頃、附近の縁日を散歩した帰りがけ、何気なく電車通りを歩いていると、ハッと彼を驚かせたものがあった。
驚いたには驚いた。だが実を云うと、それは彼が待ちに待っていた事柄でもあった。つまり細君の芳江が、たった一人で、流しの自動車を呼止め、それに乗ろうとしていたのだ。彼の留守を幸の媾曳に極っている。
「とうとう捉えたぞ」
愛之助はワクワクしながら、相手に悟られぬ様に別の自動車を呼止めて乗車した。云うまでもなく尾行である。自動車の追駈けごっこはもう慣れっこになっているのだ。
彼は嫉妬に燃えていた。妻が段々立勝って美しいものに見え出した。仮令姦婦とは云え、その美しい自分の妻を、こうして尾行している、泥棒と探偵の様に追跡しているという事実が、彼の猟奇心を妙に擽った。追跡そのものが、何かしら性慾的な事柄にさえ思われた。前を走る車の後部の窓から、妻の白い襟足がチラチラ見えた。