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りょうきのはて
猟奇の果
江戸川 乱歩
前篇 猟奇の果、後篇 白蝙蝠「文藝倶楽部」博文館、1930(昭和5)年1月~12月<br>「猟奇の果」もうひとつの結末「猟奇の果」日正書房、1946(昭和21)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 134,971 字 · 270 页
生意気な口も利く。常右衛門氏は、この年に比べて子供子供した娘と冗談を云い合うのが一つの楽しみになっていた。それが、今日は青ざめて、黙り込んで、時々、さも恐怖に耐えぬものの如く、キョロキョロとあたりを見廻す様は、日頃快活な丈けに一層いたましく見える。
常右衛門氏は、暫く話をしているかと思うと、急に立上って、イライラと部屋の中を歩き廻る。又腰かけたかと思うと、無闇に煙草をふかし始める。実業界の巨人も、この目に見えぬ敵には、いたく悩まされている体だ。
「ハハハハハハ、明智さん、わしは少し気にし過ぎている様ですね」
明智がじっと彼を見つめていたので、常右衛門氏はテレ隠しの様に言った。
「いや、御無理はないのです。こういう事に慣れている私でも、今度丈けは何だか変な気持です。私はいくらかあいつの遣り口を知っているからです。……併し、あいつだって人間です。いくらなんでも、この防備をくぐり抜ける力はありますまい。不可能事です」
「果して、不可能事でしょうかね」
「超自然の力でも持たぬ限りは」
「その超自然力を、賊は持っていると広言しておる」
「虚勢です。考えられぬことです」