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りょうきのはて
猟奇の果
江戸川 乱歩
前篇 猟奇の果、後篇 白蝙蝠「文藝倶楽部」博文館、1930(昭和5)年1月~12月<br>「猟奇の果」もうひとつの結末「猟奇の果」日正書房、1946(昭和21)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 134,971 字 · 270 页
名探偵誘拐事件
というお伽噺みたいな事実が、いつの間にかべらぼうに大きな、途方もない事件に変化して行った。
事件がすっかり落着してから、内閣総理大臣大河原是之氏は、(同氏もこの事件の被害者の一人であって、大切な一人息子を失いさえしたのだが)ある昵懇の者に述懐したことがある。
「明智小五郎君は、日本国の、イヤ世界全人類の恩人である。若し彼が此度の大陰謀を未然に防いで呉れなかったならば、この日本は、イヤイヤ、英国にせよ、米国にせよ、仏蘭西も伊太利も独逸も、或は露西亜でさえもが、その皇帝を、その大統領を、その政府を、その軍隊を、その警察力を、即ち国家そのものを、失わなければならなかったであろう。新聞記事をさし止め、風説の流布を厳禁したので、一般世人は何事も知らなかったが、彼等白蝙蝠団の陰謀は、例えば、コペルニクスの地動説、ダーインの進化論、或は銃砲の発明、電気の発見、航空機械の創造等に比すべく、吾人人類の信仰なり生活なりを、根底よりくつがえす底のものであった。
労働者資本家闘争の如き、さては虚無主義も、無政府主義も、この大陰謀に比べては、取るにも足らぬ一些事に過ぎない。