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りょうきのはて

猟奇の果

江戸川 乱歩

前篇 猟奇の果、後篇 白蝙蝠「文藝倶楽部」博文館、1930(昭和5)年1月~12月<br>「猟奇の果」もうひとつの結末「猟奇の果」日正書房、1946(昭和21)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 134,971 字 · 270 页

青空文庫

「アラ、何を怒っているの。一寸いたずらをして見た丈けなのよ。怒ることはないわ」

書生はあきれ返ってしまった。

「馬鹿。一寸いたずらに人の部屋へ這入ってこられて耐るもんか。サア出ろ、出なければこうしてくれる」

彼はいきなり乞食女(その実令嬢美禰子さん)の頸筋を掴んで、えらい力で、窓の外へ投り出してしまった。

美禰子さんはひどく憤慨して書生の無礼を叱ったが何の利目もない。いたずらが過ぎたのだ。二人の扮装が余りによく出来たので、書生にさえ見分けがつかぬのだ。と気附くと、令嬢は怒ることをやめて、おとなしく説明を始めたが、書生はどうしても承知しない。気違い扱いにして取合おうともしない。無理はないのだ。仮令乞食の顔が令嬢に似ていた所で、本物の令嬢は廊下に待っている。まさか伯爵令嬢が乞食の扮装をしようなどと誰が想像するものか。その上令嬢になり切った乞食娘の方では、そんな着物のとり換えっこをした覚えはない。顔が似ているのをいいことにして、そいつは飛んでもない云いがかりをつけるのだと、誠しやかに云い張るものだから、一層相手が気違い乞食に見えて来るのだ。

結局可哀想な美禰子さんは、何と弁解しても聞き入れられず、書生や門番の手で、荒々しく門外へ放り出されてしまった。