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りょうきのはて
猟奇の果
江戸川 乱歩
前篇 猟奇の果、後篇 白蝙蝠「文藝倶楽部」博文館、1930(昭和5)年1月~12月<br>「猟奇の果」もうひとつの結末「猟奇の果」日正書房、1946(昭和21)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 134,971 字 · 270 页
白髪の老博士は、刑事に掴まれた両手を振りほどこうと、じだんだを踏みながら、恐ろしい見幕で呶鳴った。
「静にしろ。そうでないと、痛い目を見せるぞ」
刑事が呶鳴り返した。
「うぬ、もう我慢が出来ぬ」
博士はけものの様に唸りながら、刑事に武者振りついて行った。
恐ろしい格闘が始まった。狂人は却々手強く、刑事が二人がかりでも、取静めることが出来ぬ。
だが、滅多無性にあばれ廻っている内に、博士の足が辷った。倒れる拍子に、寝台の鉄の手すりで、いやという程後頭部を打った。
博士はウームとうめいて、ぶっ倒れたまま、暫らく起上る力もなかったが、刑事達がはせ寄って抱き起すと、やっと顔を上げて、いきなりヘラヘラ笑い出した。半狂人が全くの気違いになってしまったのだ。
一方、三人の繃帯はとり去られ、睡眠剤の効力も薄らいだのだが、今の格闘騒ぎに意識を恢復した。彼等の顔にはまだ何の変化も現われていない。元のままの総監と、富豪と、秘書官であった。
丁度その時、
「賊が逃げた、早く来てくれ」
というけたたましい叫び声。
賊をとじこめて置いた、さっきの小部屋の方角だ。見張りの刑事が叫んでいるのだ。