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りょうきのはて

猟奇の果

江戸川 乱歩

前篇 猟奇の果、後篇 白蝙蝠「文藝倶楽部」博文館、1930(昭和5)年1月~12月<br>「猟奇の果」もうひとつの結末「猟奇の果」日正書房、1946(昭和21)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 134,971 字 · 270 页

青空文庫

しかも、相手の奥さんというのが、顔かたちはハッキリ見えなかったけれど、声の調子が、どうやら聞き覚えがあった。「若しや」と思うと、青木はもう真蒼になって、その実否を確める為に、我家へ走り出さずにいられなかった。

だが、彼の美しい細君は、別に変った様子もなく、にこやかに彼を迎えた。玄関を這入って、外套などをかけてある小さなホールで、ドキドキして立止っていると、一方のドアが開いて、サッと明るい電燈が漏れて、そこから芳江の小さい恰好のいい頭が覗いた。

「アラ、どうかなすって」

寧ろ彼女の方で、彼の変に蒼ざめた様子を疑った程である。

青木は黙って部屋に這入るとソファに埋まった。

彼は月々の東京行きに、三度に一度位の割合で細君を同伴しているので、細君と品川とは冗談を云い合う程の間柄になっている。品川の方で名古屋の彼の住居を訪ねたことも二三度はある。だから、もう一人の品川四郎がそれを利用して、つまり旧知の品川四郎として、芳江に近づき、彼女をある深みに陥れたというのは、想像されないことではない。

細君のことだから、彼にしてはもう不感状態になっているけれど、一般的に、彼女は充分美人であった。