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りょうきのはて

猟奇の果

江戸川 乱歩

前篇 猟奇の果、後篇 白蝙蝠「文藝倶楽部」博文館、1930(昭和5)年1月~12月<br>「猟奇の果」もうひとつの結末「猟奇の果」日正書房、1946(昭和21)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 134,971 字 · 270 页

青空文庫

あのえたいの知れぬ幽霊男が、彼と寸分違わぬ品川四郎の存在を気づき、それを利用して何か悪事を企らむとすれば、さしずめ青木の細君などは、最も魅力ある獲物に相違なかった。

芳江の側から考えても、それは全くあり得ない事柄ではなかった。青木は彼の猟奇癖の為に、又飽き性の為に、殆ど細君の存在を無視して暮して来た。月の内十日程も東京へ行っていたり、名古屋にいる時でも、多くは外で夜更かしをして、細君とむつみ語る機会は非常に稀であった。芳江が愛に餓えていたのは誠に当然のことである。それに彼女は決して、昔の女大学風な固くるしい女性ではなかった。つまり彼女の方にも、充分隙があったのだ。悪魔はちょっと手を下しさえすればよかったのだ。

愛之助はソファに埋まったまま、なるべく芳江の方を見ぬ様にして、もう一度そんなことを考えて見た。だが、彼女は、どうしてこうも平気でいられるのかしら。

「あなた、なぜそんなに黙り込んでいらっしゃるの。怒っているの」

彼女は至極無邪気である。

「そうじゃないんだが。女中達もう寝てしまった?」

「エエ、つい今し方」

「君、今夜どっかへ出掛けたの」

「イイエ、どっこも」