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りょうきのはて
猟奇の果
江戸川 乱歩
前篇 猟奇の果、後篇 白蝙蝠「文藝倶楽部」博文館、1930(昭和5)年1月~12月<br>「猟奇の果」もうひとつの結末「猟奇の果」日正書房、1946(昭和21)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 134,971 字 · 270 页
彼女はそう答えて、テーブルの上にふせてあった、赤い表紙の小説本に目をやった。実に自然である。愛之助は自分の細君が、こんなお芝居の出来る女だとは信じ得なかった。
「俺はどうかしているんだ。飛んでもない妄想にとらわれているのだ。さっきの男だって、本当に品川四郎の顔だったかどうか」思い出そうとすると、段々曖昧になって来る。
「今公園で、品川四郎君に逢った」
彼はそう云って、芳江の態度に注意した。
「品川四郎さん? 東京の?」
彼女は本当に驚いている。
「どうして、うちへいらっしゃらなかったのでしょう」
無論彼女はまだ、奇怪なる第二の品川四郎については何事も知らないのだ。
暫く話し合うと、愛之助はすっかり安心してしまった。こんな無邪気な女に何が出来るものかと、軽蔑してやりたい位だった。
一週間ばかり事もなく過ぎ去った。その間に芳江に対する疑惑を新たにする様な出来事は何も起らなんだ。注意していたけれど、例の男からの手紙も来た様子はなかった。
で、ある日、少々圧迫を感じる程も春めいてお天気のよい日であったが、愛之助は芳江と同行で東京行きの特急に乗った。午後の汽車は、ほこりっぽく、むしむしと暑くて、おまけに退屈だった。