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りょうきのはて

猟奇の果

江戸川 乱歩

前篇 猟奇の果、後篇 白蝙蝠「文藝倶楽部」博文館、1930(昭和5)年1月~12月<br>「猟奇の果」もうひとつの結末「猟奇の果」日正書房、1946(昭和21)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 134,971 字 · 270 页

青空文庫

科学雑誌社長スリを働くこと

その間を、右から左からと、肩で押し合って、絶え間なく人通りが続くのだから、実に不愉快である。

青木愛之助が、その親不知みたいな細道を通り抜けようとした時だ。

実に不思議なことに、そのほこりっぽい群集の中に、冬物の黒い中折をあみだに冠って、真赤に上気した顔を汗に光らせて、背広服の品川四郎が、人にもまれているのが見えた。

何故不思議だと云うと、品川四郎は決して愛之助の様ないかもの食いでなく、古風な見世物なんかに興味を持たぬ男なのだ。独身者故、子供に連れられて来た訳でもない。そうかと云って商売物の雑誌の種を取りに来たにしては、編輯の人を同伴している様にも見えぬ。どうも、社長様が種取りをする筈はないのだ。

しかも、びっくりしたことには、品川四郎は、見世物の熊娘にひきつけられた体で、くしまきに、唐桟の半纏で、咽喉に静脈をふくらませて、真赤になって口上を喋っている、汚い姉御の弁舌に、じっと聞き惚れているんだ。不思議なこともあるものだ。

よく見直したが、決して人違いではない。

科学雑誌社長スリを働くこと

青木愛之助は、そういう場合、無邪気に相手の名を呼んだりしない男であった。