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りょうきのはて
猟奇の果
江戸川 乱歩
前篇 猟奇の果、後篇 白蝙蝠「文藝倶楽部」博文館、1930(昭和5)年1月~12月<br>「猟奇の果」もうひとつの結末「猟奇の果」日正書房、1946(昭和21)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 134,971 字 · 270 页
奇蹟が御入用じゃなかったんですか」
「奇蹟って、なんです」
相手がストリート・ボーイではないと分って、安心したけれど、彼の話すことがまるで理解出来なかった。併し、気違いではなさそうだ。
「奇蹟をお尋ねなさるのですか。じゃ、あなたは御入用がないのです。本当に欲しいお方はそんな風にはおっしゃいませんから、さようなら」
青年はフラフラと、又元の浮浪者共の間へ戻って行った。
浅草の様な盛り場には、時々こんな不思議がある。浅草は東京という都会の皮膚に開いた毒々しい腫物の花だからだ。そこには常態でない凡てのものが、ウジャウジャとたかっている。だが、愛之助はまだ一度も、こんな変てこな男に出逢ったことはなかった。美しいけれど妙に不気味なお能の面の様な顔が、いつまでも忘れ難く目の底に残っていた。
この青年は何者であったか、ただ意味もなくここへ現われて消えてしまう人物ではない。この物語の後段に至って、彼はもう一度読者の前に姿を見せる筈だ。その時こそ、彼の所謂奇蹟が何を意味するか、ハッキリ読者に分るであろう。
愛之助は何故ということもなく怖くなって、藤棚の下を出た。そして、当てもなく明るい活動街の方へ歩いて行った。