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ささめゆき
細雪
谷崎 潤一郎
03 下巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 226,715 字 · 431 页
幸子は大体赤痢と思って間違いはないものと覚悟をし、その場合のことをぽつぽつ思案していたが、その日はとうとう心待ちにした二度目の電話が懸って来ず、翌朝も、十一時過ぎまで音沙汰がないので、何してるのやろうと、雪子と二人で苛々していると、昼近くにお春がひょっこり勝手口から這入って来た。
「どない?―――」
二人はお春の硬張った顔つきを見るなり、黙って応接間へ引き入れて聞いた。
「やっぱり赤痢らしゅうございます。―――」
実はまだ検便の結果は明かでないのであるが、医者は昨夜と今朝と見に来て、どうも赤痢のようであるから、そのつもりで方法を講じなければならない、と云い出した。で、国道筋にある木村病院、あそこには隔離室の設備があるから、彼処へ入院なさるように話して上げよう、と云うので、そうすることに極まりかけたが、たまたま勝手口へ来た出入りの八百屋が、あの病院は止した方がよいとお春に口をすべらしたので、近所で聞いて見ると、なるほど余り評判がよくない。何でも院長は耳が遠くて、聴診が十分に出来ず、よく誤診をする。阪大出身であるが、学校時代は成績が悪く、博士論文も或る同級生に書いて貰ったとやらで、その同級生も今はこの近くに開業していて、あれは僕が書いてやったのだと、云っていると云う。