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ささめゆき

細雪

谷崎 潤一郎

03 下巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 226,715 字 · 431 页

青空文庫

が、自分でさえこんな風に思うのであるから、啓坊があれを気に留めていない筈はない。―――と、雪子は云って、さっきこいさんが突然あんなことを云い出したのも、やっぱりそれがあるからなので、これこそほんとうに自分の臆測に過ぎないけれども、こいさんは昨夜板倉の亡霊に魘されてから、啓坊の家で臥ていることを気にしているのではあるまいか。啓坊の家で臥ている限り、この病気は良くならない、だんだん悪くこじれて行って、最後には死ぬかも知れない、と、そんな風に感じ出したのではないであろうか。それで、さっきのあの言葉は、櫛田医師を忌避する意味ではなくて、此処にいるのが厭であること、出来れば何処かへ移して貰いたいと云うことの、意志表示なのではあるまいか。―――

「成る程な、ひょっとしたらそんなことかも知れんな」

「なおよう聞いて見ることは見るけど、何せ啓坊がべったり附いてはるよってに、………」

「あたし、ふっと思い付いたんやけど、………もしこいさんを何処かへ移すのんやったら、蒲原病院はどうやろう。………あすこやったら、訳話したらきっと引き請けてくれはるやろう思うねん。………」

「ふん、ふん、………けど、蒲原さんが赤痢診てくれはるやろうか」