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ささめゆき
細雪
谷崎 潤一郎
03 下巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 226,715 字 · 431 页
場までも自由にお使い下さいと云ってくれたのであった。幸子は去年悦子の猩紅熱の時に雇ったあの「水戸ちゃん」に、出来れば今度も来て貰うように昨日看護婦会へ申込んで置いたところ、好い塩梅に都合を附けて、今朝から「水戸ちゃん」は来てくれていたが、売れっ児の櫛田医師はいつもの伝で、堅く時間を云って置いたのに、幸子が着いてからもなかなか見えず、電話で方々へ問い合せるやら、二三度も催促するやら、えらく手数を懸けさせるのであった。その間斎藤医師は時々腕時計を見ながらも別段厭な顔もせず、おとなしく待っていてくれて、やっとのことで現れた櫛田医師に引継ぎを終えると帰って行ったが、二人の医師の独逸語交りの談話の内容は、端の者にはどう云うことか窺い知るべくもなかった。が、櫛田医師の診察の結果は、斎藤医師とは大分違っていて、僕には肝臓が脹れているようには思われない、従って肝臓膿瘍などと云うことは考えられない、熱の差し退きや悪寒戦慄を伴ったりするのは、悪質の赤痢には有り得ることで、異常と云う程のことではなく、大体に於いて順潮の経過を辿りつつあるものと考えられる、と、そう云うので、ただ何分にも衰弱がひどいからと、その場でリンゲルとヴィタカムフルの注射をし、後刻プロントジールの注射もするように「水戸ちゃん」