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ささめゆき

細雪

谷崎 潤一郎

03 下巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 226,715 字 · 431 页

青空文庫

夫人は、戦争中の欧羅巴へ娘を旅立たせることは躊躇したのであるけれども、娘は舞踊研究のためにどうしても行くと云って聴かないし、夫も、そんなに行きたがるのなら連れて行こうと云い出したので、仕方なく許してやることにした、幸い他にも同行者が得られたので、道中の心配はないであろうと思っている、ついては、きっとハンブルクのシュトルツ一家をも訪ねるであろうから、何か御伝言でもあれば娘にお托しになってはどうか、と云うのであった。幸子は、この六月に夫人に頼んで独逸語の手紙を書いて貰い、それと一緒に舞扇と白生地とをハンブルクへ郵送したのに、シュトルツ家から何の返事も来ないことが気になっていた折柄だったので、この機会に何か品物をことづけることにし、ではお嬢さんが御出発になります迄にお宅へお届け致しますからと、そう云って夫人を帰したが、その数日後に、ローゼマリーへの贈物として真珠の指輪を見立て、シュトルツ夫人に宛てた書簡を添えて、それをヘニング家へ持って行った。

御牧は光代から予告があった通り、その月の二十日近くに、或る夜嵯峨の子爵邸から電話で、昨日東京から此方へ着き、二三日滞在しているつもりであるが、一遍御主人御在宅の折に参上したいと云って来たので、夕刻からなら、いつでも御都合のよろしい日にと云うと、それでは明日伺いますと云っ