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ささめゆき

細雪

谷崎 潤一郎

03 下巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 226,715 字 · 431 页

青空文庫

でもあるし、世間体もよいし、あらゆる点で望ましいことなのであった。尤も、お春の話を聞いただけで縒りが戻ったものと極めてしまうのも早計だけれども、恐らくそうなのではあるまいか。妙子は本家や幸子たちが奥畑との恋愛には理解があることを知っているので、よしんば事実であったとしても隠す必要はないようなものの、一時あんなに奥畑に愛憎を尽かしていた手前、自分から縒りが戻ったことを白状するのは極まりが悪いのではなかろうか。と云って、幸子などには知って置いて貰った方が都合の好いこともあるので、お春あたりの口から知れることを願っているのではあるまいか。―――幸子はそんな風に見当を付けたのであったが、それから数日後の朝、食堂で暫く二人きりになった折に、

「こいさん、この間、あたし等が菊五郎見に行った日、新開地のとこ自動車で通ったわな」

と、わざと何でもないように云うと、妙子は、

「ふん」

と、頷いて見せた。

「与兵へも行ったんやて?」

「ふん」

「啓坊、何で西宮へ家を持ちやはったん」

「兄さんに勘当されて、大阪の家にいられんようになってん」

「何で」

「何でか、はっきり云わへんねん」

「いつぞやお母さんが死にやはったんやったわなあ」