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だっせんむすこ
脱線息子
佐々木 邦
「キング」大日本雄辯會講談社、1927(昭和2)年7月~1928(昭和3)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 108,293 字 · 221 页
未だ何か言い聞かせたくて跟いて行った母親は出合い頭に、
「散歩かね?」
と尋ねた。
「いゝえ、散髪です」
と新太郎君は至って天真爛漫だった。明日は秀子さんの家へ顔を出すのだ。
「あなた、オホヽヽヽ」
と母親は又茶の間へ戻った。
「何だい?」
「新太郎は早速散髪に参りましたよ」
「ハッハヽヽ、手廻しの好い奴だ」
と父親は久しぶりで心底から笑った。
翌朝、母親が手ずから着物を着せて、父親が口上を教えてくれた。嫁を貰う息子を未だ子供だと思っている。新太郎君は羽織袴に昨夜散髪の帰途大徳へ廻って特に吟味して来たタスカン帽。瀟洒たる若旦那振りを発揮していた。
「立派だよ」
と母親は褒めながら送り出した。店の前で円タクに納まって、
「牛込弁天町」
と命じた時、新太郎君の魂はもう秀子さんのところへ飛んでいた。年頃の娘を持つ病人は斯ういう見舞客のあることを覚悟しなければならない。
松浦さんの家は想像以上に大きな構えだった。厳めしい表玄関と気の利いた内玄関が並んでいる。訪問者は身分を省て二者一つを択べという意味だろう。震災以来半バラック式に住んでいる新太郎君は少々度胆を抜かれた。しかし下町の目抜と山の手の突っ端とは地価の桁が違う。