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だっせんむすこ

脱線息子

佐々木 邦

「キング」大日本雄辯會講談社、1927(昭和2)年7月~1928(昭和3)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 108,293 字 · 221 页

青空文庫

もう宮地さんが出動していらあ」

「然うなら巧いんだがね」

と新太郎君も昨今再び身を入れて申分なく勤めているのだった。

「それは然うと、大分遠いじゃないか?」

「神楽坂から直ぐのようだったが、自動車だった所為かな」

「厭だぜ/\」

「これから散歩さ。先刻神楽坂で下りたばかりだもの」

「斯ういうおつき合いをするのは余っ程好人物だろうね」

と寛一君も今更仕方がない。

新太郎君は一度来ているから、松浦家を探すのに困難がなかった。

「この辺だったがね」

と二三軒順次に物色して行った後、

「こゝだよ」

と門燈を指さした。

「成程、松浦家としてある。家丈け余計だ。矢っ張り婆の見識が現れている」

「この中に秀子さんがいるんだね」

「拝み給え」

「馬鹿にするなよ」

「天の与えだ。潜りが少し開いている」

と寛一君は近寄って、内を覗いた。

「見えるかい?」

「玄関が明るい」

「どれ」

と新太郎君も忍び寄った。

「もうよせよ。人が来た」

と寛一君が警戒した。

「行こう。停留場はこの見当らしい」

と応じて、新太郎君は歩き出したが、矢張り名残惜しい。間もなく、

「もう一遍神楽坂を通って帰ろう」

と言って又引き返した。