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だっせんむすこ

脱線息子

佐々木 邦

「キング」大日本雄辯會講談社、1927(昭和2)年7月~1928(昭和3)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 108,293 字 · 221 页

青空文庫

「旦那、あのお池のところの赤松でございますが、あれをもう二間ばかり手前へ寄せますと、影が水に映って、お縁側からの眺望が一段と引き立ちますよ。俺は二三年前から然う思っているんですが、旦那、如何でございましょうな?」

と小手を翳して庭を眺める。この商売は眺めている時間と働いている時間が半々だ。

「然うさな」

「今なら丁度季節ですから、一つ動かして見ましょうか?」

「さあ、枯れやしまいかね?」

「大丈夫です。遠方なら兎に角。俺が保証致します」

「確かに眺望は好くなるな。しかし何分古木だからね。まあ/\考えて見よう」

と主人公は決して責任のある返辞をしない。早速奥さんのところへ行って、

「お貞や、植木屋があの赤松をもう少し池の方へ寄せようと言うんだが、何んなものだろうな?」

と意向を伺う。

「然うでございますね」

「縁側から能く見えるようになるよ。水に映って風情を添える」

「けれどもあんな大きなものを動かすと六七人手間になりますよ。それにあれは父が植えたんですから、矢っ張りあのまゝにして置きましょうよ」

「それも然うだな」

「あなた、植木屋ってものは仕事を拵えようと思って種々のことを言い出しますから、一々相手になっていちゃ駄目ですよ」