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きくやしき
菊屋敷
山本 周五郎
「菊屋敷」産報文庫、大日本雄辯會講談社、1945(昭和20)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,620 字 · 71 页
十二
「晋太郎さんもお呼び下さい」庄三郎がそうせがんだ、「……もう八歳だから時には男のなかへ出さなければいけません、あなたはずいぶん厳しく躾けておいでのようだが、婦人はやっぱり婦人ですからね」
「いやそうでもないですよ」と脇のほうから若い門人のひとりが顔を覗けて云った、「……ちょっとみると温和しそうですが、わたくしなどはかなり虐待されたものです、いや本当にひどいめに遭っているんですよ」
十二
「それはまたどういうことでございますか」
「表の道から門へはいる途中に晋太郎さんが立っていましてね、――ここは関所だ、旅切手を持たない者は通さない、そう云って立塞がるんです、はじめはごまかして通ろうとするんですが、そうするといきなり、隠して持っていた木刀でやっと打たれるにはおどろきました」
「ああそれか、これならおれもやられたよ」別の青年が笑いながら口を※(「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2-13-28)んだ、「……おれは初めてのとき蜜柑を持っていたので、これが切手でござると出したんだ、すると、――喰べ物などとは卑しいやつだ、そう云ってやっぱり木刀でぽかりさ」