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ちのもじ

血の文字

黒岩 涙香

「綾にしき」1892(明治25)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,021 字 · 87 页

青空文庫

事では有るし、妻の心も落着いて居ぬ間ですから其所を附込み問落せば何の様な事を口走たかも知れません、包み兼て白状するか、夫ほどまでに行かずとも貴方の眼で顔色ぐらい読む事が最易かッただろうと思いますよ」此口振は云う迄も無く藻西を真の罪人と思い詰ての事なれば余は椅子より飛上り「おや/\奥さん、夫では藻西太郎を本統の犯罪人と思召すのですか、ヱ貴女」細君は不意の横槍に少し驚きし如くなりしも、直に落着て何所やら謙遜の様子を帯びつゝ「はい若しや爾では有るまいかと私しは思います」余は是に対し熱心に藻西太郎が無罪なる旨を弁ぜんとするに細君は余に其暇を与えず、直ちに又言葉を継ぎて「孰れにしても此犯罪が其妻倉子とやら云う女の心から湧て出たには違い有ません私しは必ず爾だと思いますよ、若し犯罪が二十有るとすれば其中の左様さ十五までは大抵女の心から出て居ます、夫は私しの所天に聞ても分ります、ねえ貴方」と一寸と目科に念を推して更に「のみならず店番の言立でも大概は察せられるじゃ有ませんか、店番は何と云いました倉子と云う女は大変な美人で、望みも大きく、決して藻西太郎の様な者に満足して居る