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とおのものがたり
遠野物語
柳田 国男
「遠野物語」柳田國男、1910(明治43)年6月14日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 39,063 字 · 79 页
四
五
山男なるべしといえり。
○土淵村大字栃内。
四 山口村の吉兵衛という家の主人、根子立という山に入り、笹を苅りて束となし担ぎて立上らんとする時、笹原の上を風の吹き渡るに心づきて見れば、奥の方なる林の中より若き女の穉児を負いたるが笹原の上を歩みて此方へ来るなり。きわめてあでやかなる女にて、これも長き黒髪を垂れたり。児を結いつけたる紐は藤の蔓にて、着たる衣類は世の常の縞物なれど、裾のあたりぼろぼろに破れたるを、いろいろの木の葉などを添えて綴りたり。足は地に着くとも覚えず。事もなげに此方に近より、男のすぐ前を通りて何方へか行き過ぎたり。この人はその折の怖ろしさより煩い始めて、久しく病みてありしが、近きころ亡せたり。
○土淵村大字山口、吉兵衛は代々の通称なればこの主人もまた吉兵衛ならん。
五 遠野郷より海岸の田ノ浜、吉利吉里などへ越ゆるには、昔より笛吹峠という山路あり。山口村より六角牛の方へ入り路のりも近かりしかど、近年この峠を越ゆる者、山中にて必ず山男山女に出逢うより、誰もみな怖ろしがりて次第に往来も稀になりしかば、ついに別の路を境木峠という方に開き、和山を馬次場として今は此方ばかりを越ゆるようになれり。