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とおのものがたり

遠野物語

柳田 国男

「遠野物語」柳田國男、1910(明治43)年6月14日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 39,063 字 · 79 页

青空文庫

八

互いに打ち驚き、いかにしてかかる山にはおるかと問えば、女の曰く、山に入りて恐ろしき人にさらわれ、こんなところに来たるなり。遁げて帰らんと思えど些の隙もなしとのことなり。その人はいかなる人かと問うに、自分には並の人間と見ゆれど、ただ丈きわめて高く眼の色少し凄しと思わる。子供も幾人か生みたれど、我に似ざれば我子にはあらずといいて食うにや殺すにや、みないずれへか持ち去りてしまうなりという。まことに我々と同じ人間かと押し返して問えば、衣類なども世の常なれど、ただ眼の色少しちがえり。一市間に一度か二度、同じようなる人四五人集まりきて、何事か話をなし、やがて何方へか出て行くなり。食物など外より持ち来たるを見れば町へも出ることならん。かく言ううちにも今にそこへ帰って来るかも知れずという故、猟師も怖ろしくなりて帰りたりといえり。二十年ばかりも以前のことかと思わる。

○一市間は遠野の町の市の日と次の市の日の間なり。月六度の市なれば一市間はすなわち五日のことなり。

八 黄昏に女や子供の家の外に出ている者はよく神隠しにあうことは他の国々と同じ。松崎村の寒戸というところの民家にて、若き娘梨の樹の下に草履を脱ぎ置きたるまま行方を知らずなり、三十年あまり過ぎたりしに、或る日親類知音の人々その家に集まりてありしところへ、きわめて老いさら