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とおのものがたり
遠野物語
柳田 国男
「遠野物語」柳田國男、1910(明治43)年6月14日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 39,063 字 · 79 页
二九
この猟師半分ばかり道を開きて、山の半腹に仮小屋を作りておりしころ、或る日炉の上に餅をならべ焼きながら食いおりしに、小屋の外を通る者ありて頻に中を窺うさまなり。よく見れば大なる坊主なり。やがて小屋の中に入り来たり、さも珍しげに餅の焼くるを見てありしが、ついにこらえ兼ねて手をさし延べて取りて食う。猟師も恐ろしければ自らもまた取りて与えしに、嬉しげになお食いたり。餅皆になりたれば帰りぬ。次の日もまた来るならんと思い、餅によく似たる白き石を二つ三つ、餅にまじえて炉の上に載せ置きしに、焼けて火のようになれり。案のごとくその坊主きょうもきて、餅を取りて食うこと昨日のごとし。餅尽きてのちその白石をも同じように口に入れたりしが、大いに驚きて小屋を飛び出し姿見えずなれり。のちに谷底にてこの坊主の死してあるを見たりといえり。
○北上川の中古の大洪水に白髪水というがあり、白髪の姥を欺き餅に似たる焼石を食わせし祟なりという。この話によく似たり。
二九 鶏頭山は早池峯の前面に立てる峻峯なり。麓の里にてはまた前薬師ともいう。天狗住めりとて、早池峯に登る者も決してこの山は掛けず。