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しんさいこうき

震災後記

喜田 貞吉

「社会史研究 第一〇巻第四号」1923(大正12)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,544 字 · 41 页

青空文庫

。この間には全く人間の間に階級も差別もあったものではない。これまで見ず知らずの人が互いに懇意になって、もと金持だったものも、その日暮らしの生活をしていたものも、学者も、労働者も、強壮なものも、虚弱なものも、貴も、賤も、老も、幼も、少しも隔てというものがなく、互いに同情しあった美わしい交際をしたものであった。理想的の天国というものはまさにこれだなと思った。

ところがそのうちのあるものは親族に引き取られる。懇意な先を見付けて引き移る。そこに取り残されたものの悲哀が生ぜざるを得ぬ。衣服の配給がある。そこに少しでも良い物を取ろうとしての暗闘が始まる。仲間のあるものに土産を持った訪問者がある。他のものはたちまちそれを羨み妬むの念を生ぜざるを得ぬ。人間の浅間しい根性は、かくのごとくにしてだんだんと現われて来るのである。かくのごとくにして真の天国は、いつのまにかなくなってしまう。人間が真に貴賤貧富の差別を撤して、その平等なる生活を楽しもうとするには、どうしても原始未開の時代に戻って何人もいっさい財産を持たぬことになり、労せずしてどこからか均一な衣食の料の供給を受け、智者も賢者も勤勉者もその智と賢と勤勉とを用うるの余地をいっさいないものとなし、すべての人が遊んで暮らして、物好きに働くものがあったとしても、その働きが何ら