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しんさいこうき

震災後記

喜田 貞吉

「社会史研究 第一〇巻第四号」1923(大正12)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,544 字 · 41 页

青空文庫

★ただで一つおくれ

これは平素の火事にもあまり見かけぬ広告ながら、ともかく飛んだお相伴でお気の毒な次第と御同情する。よしや地震で焼けたにしても火元は火元で、類焼は互いに類焼に相違ないのだ。がしかし、こう露骨に出られてみると、打った人よりも直接打った手の方が憎く、猫いらずを飲ました人よりも、直接人を殺した猫いらずの方が憎いのではないかと考えさせられる。いな、さらにその猫いらずを売り出した人の方が憎いという人があるかも知れぬ。

★ただで一つおくれ

自分の宅の隣にIという小さい古道具屋がある。その主人いう。「今日も金槌を買いに来たものがあった。罹災者らしいので値段を安く言ってあげたところが、その人の曰くに、なるほど安いには安いが、実は俺は罹災者で金がないのだ、こんなにたくさんあるじゃないか、一つただでくれてよかろうという挨拶です。これは商売品ですから、ただ差上げる訳には行きませんと下手に出ると、君の所は焼けなかったじゃないかと言う見幕で、とても安心して商売も出来ません」というのだ。大阪から雑貨を持って商いに来た人があって、道のはたに品物を広げるとたちまちに売れてしまったが、金を払わないで行った人が随分多かったという話も聞いた。