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まじゅつし
魔術師
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年7月~1931(昭和6)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 139,264 字 · 280 页
手品師は、バラバラの手足を投げると見せて、自分のうしろの背景の隙間に隠す、その刹那、娘の手足を覆った黒布が一つ一つ落ちて、丁度手足が生えて行く様に見えるのだ。
二郎が驚き恐れたのは、そんなトリックなどではなかった。さっき大ダンビラで切断された人形も、今立上って挨拶している娘と同じ様に生きてはいなかったか。吹き出したのは、赤インキではなくて、本当の血潮であり、あのうめき声は、真実断末魔のむごたらしい苦悶だったのではないか。という悪夢の様な考えであった。
二郎は、寒い気候にも拘らず、身体中にネットリ汗をかいて、已に卸された緞帳を見つめていたが、丁度舞台の娘が背景の裏へ這入ったなと思われる頃、幕のうしろから、たった一声ではあったが、「キャッ」という、確かに若い女の悲鳴が聞えた様に思った。
「アア、きっと、あの娘が、殺されたもう一人の娘の、バラバラの死体を見たのだ。そして、恐怖の余り叫び出そうとしたのを、誰かが口に手を当てて、黙らせてしまったのだ」
と、彼のいまわしい幻想は、どこまでも拡がって行くのである。
まだあとに幾幕か残っていたけれど、彼はもう、じっと手品を見ている気がしなかった。