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まじゅつし
魔術師
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年7月~1931(昭和6)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 139,264 字 · 280 页
三つの黒影が、木の根にぶつかりながら、巴となって掴み合った。
だが、いくら強いといっても、一人と二人では勝負にならぬ。組みしかれていた男が、はね起きた。余る力で音吉を突き飛ばして置いて、サッと飛びのくと、いきなり闇の中へ逃げ去ってしまった。
取残された二郎こそ、迷惑である。彼は、まさか主人がこんな所へ来ているとは知らぬ音吉の為に、散々な目に合わされた末、先の男に代って、同じ様に組みしかれてしまった。
「貴様は何者だ」
老人とも思われぬ強い声が尋ねた。
「手を離せ。俺は君の主人の玉村二郎だ」
「エッ、あなた、二郎さんですか」
音吉は、さも驚いたらしく、押えていた手を離して立上った。
「どうして、こんな所へお出でなすったのです」
「君こそ、どうしてここにいるのだ。今の男をどうする積りだったのだ」
二郎は逃がすものかと、音吉の胸ぐらを掴みながら、詰問した。
「イヤ、何でもないのです」音吉はしらばくれて、「あなたの御存じのことではありません。サア、その手を離して下さいませ」
「離すものか」
「では、この爺をどうしようとおっしゃるのです」
「分り切っているじゃないか。警察へ引渡すのさ」