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まじゅつし

魔術師

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年7月~1931(昭和6)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 139,264 字 · 280 页

青空文庫

直ちに場内から表の往来まで隈なく捜索したが、已に手遅れ、首領の怪物も、部下の連中も、娘の文代まで、行衛知れずになっていた。

道化服の若者を取調べて見ると、彼は近頃元の親方の所から、多分の金を持逃げして、怪賊の一座にかくまわれていた者で、さっき「美人解体術」が終って間もなく、座長が「木戸口にデカらしい奴が来ているから、万一の用意に、お前は俺の道化服を着て白粉を塗って、姿を変えているがよかろう」と注意してくれたので、その通りにしていると、今の捕物騒ぎだ。脛に傷持つ彼は、テッキリ自分が捕縛されるものと思い込み、持前の軽業で、綱渡りから天井裏への逃走となったのである。彼は泥棒などする男に似合わず極度の小心者で、短刀を用意していたのも、繩目の恥を受けるよりは、いっそ自殺したがましだと、本当に考えたからであった。併しいざとなると、やっぱり駄目で、結局捕縛されてしまったが、聞けば、泥棒をしたのも、慾心からではなく、色女に貢ぐ為だったという事だ。

無論これは、例の怪物の、悠々迫らぬ、からかい顔の逃走トリックであった。流石の明智もそこまで手早い用意が出来ていようとは知らず、思いもかけぬ失策を演じてしまったのだ。