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まじゅつし

魔術師

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年7月~1931(昭和6)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 139,264 字 · 280 页

青空文庫

併し、明智小五郎の兼ねての注意に基き、玉村氏は、この何の危険もない晩餐会にも、屈強の書生数名を、護衛として同伴することを忘れなかった。

約束の午後六時、物々しい二台の自動車が、小石川の淋しい屋敷町にある、牛原氏邸の玄関に横づけになった。

上機嫌のニコニコ顔で、召使と共に出迎いをした牛原氏は、玉村氏の一行四人を、奥の客間へと招じた。同伴の書生達は、別間に酒肴の用意が出来ているというので、その方へ連られて行った。

客間は、主人の例の無雑作で、畳の上に絨毯を敷き、椅子テーブルを並べて、洋室らしくしつらえたもので、贅沢な洋風家具と、床の間のある天井の低い座敷とが、妙にチグハグで、明治初年の錦絵などにある、西洋間という感じがした。

中央の大テーブルには、已に主客五人分の食事が用意されてあった。

「サア、どうかおかけ下さい。ご馳走は何もありませんが、今晩は、料理よりも、妙子さんのピアノと、それから、お約束の私の秘蔵のダイヤモンドをお目にかけるのが、ご馳走です」

牛原氏は愛想よく振舞った。

玉村氏が今晩の招待に応じた第一の理由は、この牛原氏自慢の宝石を見る為であった。