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まじゅつし

魔術師

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年7月~1931(昭和6)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 139,264 字 · 280 页

青空文庫

「そうです。その宝石には、殺人罪さえ伴っているのです」

「いつ、どこで、誰が盗まれたのです」

「昨年の十一月、私の弟が盗まれました」

「それじゃ、あの獄門舟の惨殺事件の折にですか」

牛原氏は、非常な驚きにうたれて叫んだ。

「そうです。福田得二郎が、あの魔術師と呼ばれる兇賊の為に惨殺された時、ロゼット型のダイヤモンドが紛失したことは、当時の新聞にも出ました。その品は、私の店の番頭が、フランスの同業者から買って帰ったもので、それを弟の得二郎が懇望するので譲ってやったのでした。牛原さん。これは今度の犯人を探し出す為には、大変な手掛りです。その本国へ帰ったアメリカ人が、誰から譲り受けたかという事が、分らないものでしょうか」

「そうでしたか。これがあの時のダイヤでしたか。よろしい、探って見ましょう。本人は国へ帰りましたが、親しくしていた友人がいる筈です。明日、早速その男を訪ねて、訊して見ましょう」

一しきり、その宝石が巡り巡って、牛原氏の手に入った奇縁について、驚きの言葉が取交わされた。

「イヤ、もうその話は止しにしましょう。私が必ず元の譲り主を探し出してお目にかけますから御安心なさい。