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まじゅつし

魔術師

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年7月~1931(昭和6)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 139,264 字 · 280 页

青空文庫

だが、そんな悠長な順序を踏んでいる余裕がなくなった。俺の楽しみは薄らぐけれど、仕方がない。とうとう今夜、最後の幕を切って落したのだ。

サア、これで俺の云うことはおしまいだ。あとは、この扉の外へ、五十年前に貴様の親爺がやった様に、煉瓦を積んで、貴様達を生埋めにするばかりだ。

精々苦しむがいい。そして、俺の親爺の苦しみがどんなものであったかを、つくづく味って見るがいい」

悪魔の長談義が終ると共に、覗き穴の蓋がカチンと閉って、外には又しても、煉瓦積みの物音が始まった。

これで悪魔の復讐の動機が分った。彼の四十年の労苦も明かになった。だが悪魔はなぜか、彼の結婚について、その妻の死について、残された一人娘の文代について、何事も云わなかった。穴蔵にとじこめられた四人の者は、そんなことを疑っている暇もなかったが、考えて見ると、いくら復讐の為とは云え、可愛い一人娘を、平然として悪事の道連れにしている、源造の気が知れぬではないか。彼は娘がいとしくはないのであろうか。それとも、他に何か深い事情でもあったのかしら。針で突いた程の抜目もない悪魔のことだ。娘の文代についても、遡っては彼の結婚そのものにさえ、何かしら深い深い企らみが隠されていたのではなかろうか。