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まじゅつし

魔術師

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年7月~1931(昭和6)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 139,264 字 · 280 页

青空文庫

「エエ」

文代は答えて、ポケットからマッチを出すと、それをシュッとすって、二三度振り動かし、燃えかすを海の中へ投げ捨てた。

暫く待つと、ギイギイとオールのきしり、小型ボートが白い小波を立てて、岸に近づいて来た。

明智はす早く岸の石垣に隠れる。

「文ちゃんかい」

ボートから低い声が尋ねた。

「エエ、お前、三次さん?」

「そうだよ。もう親父さん帰っているぜ。文ちゃんはどこへ行ったと、えらく探していたぜ」

「お父さん、一人で帰ったの」

「インヤ、例のお嬢さんと二人連れさ」

低い声だけれど、明智はこの問答を、すっかり聞き取った。

「三次さん、ちょいとここまで上ってくれない。荷物があるのよ」

文代は兼ねての打合わせに従って、三次を上陸させようとした。

「荷物だって、何を又買い込んで来たんだね」

それとも知らぬ、お人好しの三次は、ボートをもやって、ノコノコと石段を上って来た。

「文ちゃん、荷物って、どこにあるんだい」

「ここよ」

「どれ、どこに」

と、三次が覗く石垣の蔭から、ヌッと現われた黒い人影。

「ヤ、貴様、一体誰だッ」

「ハハハハハハ、びっくりしなくてもいい。声さえ立てなければ、無闇に発砲する訳じゃないんだから」