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まじゅつし
魔術師
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年7月~1931(昭和6)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 139,264 字 · 280 页
明智も、文代も、それを見るとギョッとした。くやしさに唇を噛んだ位の血の量ではなかったからだ。
「どうかしたのか。オイ、どうかしたのか」
明智が駈け寄って、源造の顔から彼の両手を離そうとしたが、彼の手は膠づけになった様に、離れなかった。
彼は、蹲った姿勢を少しも変えず、ポトポト血をたらしながら、傷ける野獣の様に、物凄く唸るばかりだ。たまり兼ねた文代は、父の側にしゃがみ、その顔を覗く様にして泣声を立てた。
「お父さん、お父さん。どうなすったの。そんなに泣かないで下さい。あたしが悪かったわ。あたしが裏切りをしたばっかりに、お父さんをこんな目に合わせて、……でも仕方がありませんわ。いさぎよく死刑になって下さいね。あたしきっと、お父さんの死刑になるその日に死んで見せるわ、そしてあの世へ行ってから、存分孝行しますわ。それで堪忍して、ね、堪忍して!」
叫ぶ様に喋りつづける。娘の悲痛な言葉が耳に這入ったのか、源造はやっと両手を離して、顔を上げた。だが、それは決して彼の激怒がおさまったからではなかった。顔を上げると同時に、彼の右手は、いきなり文代を突飛ばした。
文代は「アレー」