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まじゅつし

魔術師

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年7月~1931(昭和6)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 139,264 字 · 280 页

青空文庫

「夢を見たのか。びっくりするじゃないか」

善太郎氏が、たしなめる様に云うと、妙子さんは強くかぶりを振って、

「夢じゃありません。たしかにこのシーツの上にとぐろを巻いていたんです。あたし、何か重くなったものだから、目を覚したのですもの。……」

「とぐろをまいていたって?」

「エエ、あなた方、今廊下で、誰かにお逢いにならなかって? 大きな、角力取りみたいな人に」

それを聞くと、一同ギョッと色を変えた。角力取りみたいな男! 読者は記憶せられるであろう。第一回の殺人事件は、魔の様な巨人の仕業であったのだ。普通人の倍もある血の手型。闇の中を走り去った、七八尺もある様な大入道。あれだ。「角力取みたいな」という言葉が、忽ちその当時の巨人の幻を描き出した。

その後、賊は魔術師の様な怪人物と分ったので、あれも魔術的な一種の変装であったのだろうと、警察でも、明智小五郎さえも、殊更らその巨人について穿鑿をしなかった。捕縛した小賊共には一応尋ねて見たけれど、誰もその不気味なトリックを知っているものはなかった。

「角力取りだって? お前そんな奴を見たのか」

善太郎氏はただならぬ気色で尋ねた。