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まじゅつし

魔術師

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年7月~1931(昭和6)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 139,264 字 · 280 页

青空文庫

大人というものは、浮世の雑念に捉われ過ぎて、却って本当のことが分らない。ありありと見えている物が、見えないのです」

明智は禅宗坊主みたいな云い方をした。探偵学もある意味で禅と同じ様なものかも知れない。こいつが、実際家の波越警部には一番苦手だ。彼は苦笑しながら、

「サア、そこが分らないのですよ。君の所謂『盲点』という奴でしょうが、僕には、そのありありと見えているものが、まるで見えないのです。併し、あなたには、本当にそれが見えているのですか」

と逆襲した。

「見えていますとも」

明智は平然として答えた。

「すると、つまり、君は玉村氏を殺し、一郎二郎の兄弟に毒を盛った真犯人を、知っている訳ですか」

警部の鉾先は益々鋭い。併し、明智は少しも驚かぬ。

「知っているのです」

驚いたのは警部の方だ。無理もない。この素人探偵は、警察があれ程騒いでも、片鱗さえ掴み得ぬ謎の犯人を、知っているというのだ。

「まさか冗談ではありますまいね。僕は真面目なのです」

「冗談ではありません」

「では、聞かせて下さい。その真犯人は何者です。どこにいるのです」

波越警部は、意気込み烈しくつめよった。